皆さんこんにちは!災害医療らぼです。
今回は、「薬剤師のための災害対策マニュアル」についてご紹介します。
薬剤師のための災害対策マニュアルとは
「薬剤師のための災害対策マニュアル」は医療に従事する薬剤師及び薬剤師会が災害時に行うべき活動と、平時の準備・防災対策をまとめたもので、平成23年度厚生労働科学研究「薬局及び薬剤師に関する災害対策マニュアルの策定に関する研究」で作成され、平成24年3月に公開されました。
過去にマニュアルを基に、東日本大震災の経験が加わったマニュアルでした。
令和6年の改定では何が変わったか?
令和5年度厚生労働科学研究「薬剤師・薬局における災害時対応についての調査研究」で作成され、令和6年3月に公開されました。研究の代表は福岡大学薬学部教授の江川孝先生です。
大きなテーマは、「災害薬事コーディネーター」、「新興感染症」、「医薬品供給体制」ではないでしょうか?
改訂版では各章が災害薬事のCSCAPPPに基づいてまとめられており、日本病院薬剤師会の章が追加されています。
他には、モバイルファーマシーの活用の追加、業務の引継ぎ・撤収の追加、災害薬事コーディネーターの活動の追加、災害時の感染制御の追加、災害支援薬剤師・災害薬事コーディネーターの研修の章の追加、BCP作成の手引きの追加がされています。
災害薬事のCSCAPPPとは?
CSCAPPPとは、災害支援の際に薬剤師に必要な考え方で、指揮統制・安全・情報伝達・評価・災害薬事トリアージ・準備・医薬品供給の略です。
C | 指揮・統制 | Comand and control |
S | 安全 | Safety |
C | 情報伝達 | Communication |
A | 評価 | Assessment |
P | 災害薬事トリアージ | Pharmaceutical triage |
P | 準備 | Preparation |
P | 医薬品供給・調剤 | Provide medicines |
日本病院薬剤師会
DMATの病院薬剤師だけでなく、病院薬剤師会として自主的に救援活動を開始する体制を準備、構築する。
病院薬剤師会における体制としては、災害発生時に被災地の都道府県病院薬剤師会内や保健医療福祉調整本部内に、情報収集・伝達、指揮命令の拠点となる現地調整班の拠点を設置し、日本病院薬剤師会内に設置した「災害医療支援本部」が「現地調整班」を支援することを原則とする。
モバイルファーマシーの活用
モバイルファーマシーとは、ライフライン喪失下の大規模被災時に通常の調剤と医薬品の供給が可能な自立した医療支援ユニット(災害対応医薬品供給車輌)です。
- 被災地域の現地保健医療福祉調整本部もしくは平時の保険医療提供体制が崩壊した地域に常駐して救護班からの災害処方箋を応需する仮設調剤所
- 巡回診療する保健医療救護班に同行して調剤をする移動仮設調剤所
- 避難所を巡回して被災者の健康相談や公衆衛生活動をする相談窓口
以上3つの運用法があげられており、展開期、活動期、撤収期の3ステップそれぞれの運用例が記載されています。
モバイルファーマシーの運用等に関する協定書などの資料も開示されています。
業務の引継ぎ・撤収の追加
改訂により、後任への引継ぎの詳細が明記されました。
これまで問題になってきた、活動終了後の余剰医薬品について、説明・引継ぎを行うか、持ち帰り、放置されることがないように留意しましょう。
災害薬事コーディネーターの活動の追加
災害薬事コーディネーターとは、災害時に、都道府県並びに保健所及び市町村が行う保健医療活動における薬事に関する課題解決のため、都道府県が設置する保健医療福祉調整本部並びに保健所及び市町村における保健医療活動の調整等を担う本部において、被災地の医薬品等や薬剤師及び薬事・衛生面に関する情報の把握やマッチング等を行うことを目的として、都道府県において任命された薬剤師。
と明記されました。
他、災害薬事コーディネーターの業務が詳しく収載されました。
災害薬事コーディネーター活動要綱(例)や、マニュアル、活動手順書、育成研修の資料が公開されています。
災害時の感染制御の追加
災害時に薬剤師に求められる感染制御の対応例として以下の内容が記載されました。
- 避難所における標準予防策と感染経路別予防策の実践
- 消毒水準の選択
- 消毒水準に合った消毒薬の選択
- 消毒薬の適切な利用と継続的な運用
- 抗菌薬適正使用の啓発
ほかに、学校薬剤師としての視点も記載された。
災害支援薬剤師・災害薬事コーディネーターの研修の章の追加
災害支援薬剤師、災害薬事コーディネーターの標準的研修について一般目標と到達目標が示されました。
災害支援薬剤師の標準的研修の一般目標
- 我が国の災害医療提供のための法制度を理解し、災害周期に応じて薬事衛生を司る薬剤師としての使命感を身につける。
- 災害時の医療救護活動の基本である CSCATTT を理解し、薬事サポートの基本となるCSCAPPP について説明できる。
- 災害時の法規や過去の災害での通知を参考にして薬剤師が行うべき災害時の薬事衛生活動が理解できる。
- 過去の災害での薬事サポート事例を参考にして薬剤師が行うべき災害時の薬事衛生活動について理解できる。
災害薬事コーディネーターの標準的研修の一般目標
- 我が国の災害医療提供のための法制度を理解し、災害周期に応じて薬事衛生を調整する災害薬事コーディネーターの使命感を身につける。
- 災害時の薬事サポートの基本となる CSCAPPP を理解し、災害時の薬事マネージメントについて説明できる。
- 過去の災害での薬事サポート事例を参考にして薬剤師が行うべき災害時の薬事衛生活動の調整について理解できる。
- 過去の災害での薬事サポート事例を参考にして災害薬事の状況把握と資源の再配分について理解できる。
ほか、標準的研修に加えたアドバンス研修の例が示されました。
- 薬事トリアージ研修
- 新興感染症対応研修
- 原子力災害対応研修
- モバイルファーマシーを活用した研修
- メンタルヘルス研修
- 避難所運営研修
- J-SPEED 研修/薬剤版 J-SPEED (SPADE)研修
BCP作成の手引きの追加
事業継続計画(BCP)と災害対策マニュアルの違いや策定の方法が示されています。
災害医療らぼでは、薬局BCPの策定方法についてこちらで解説しています。
改訂版「薬剤師のための災害対策マニュアル」の見方
改訂版「薬剤師のための災害対策マニュアル」は福岡大学の災害薬事プロジェクトから見ることができます。
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